「子どもはいないけれど、夫婦で暮らしているから相続はそれほど心配していない」
「自分が亡くなったら、あとは兄弟で何とかしてくれるだろう」
そう考えている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし私は、子どものいない方こそ、元気なうちに遺言書を作っておくことを強くおすすめします。
なぜなら、子どもがいない方の相続では、亡くなった後に思いもよらない人まで相続手続きに関わることがあるからです。
今回は、実際の相続手続きで何が大変になるのかという視点からお話しします。
子どもがいなければ、兄弟姉妹が相続人になることがある
たとえば、子どもがおらず、両親などの直系尊属もすでに亡くなっている場合、兄弟姉妹が相続人になります。
配偶者がいる場合でも、配偶者だけが相続人になるとは限りません。この場合は、配偶者と兄弟姉妹が相続人となります。
ここまでは比較的分かりやすい話です。問題は、その兄弟姉妹も高齢になっていることです。
まず「相続人が誰なのか」を確定するだけでも大変
たとえば80代、90代の方が亡くなったとします。その方の兄弟姉妹も、当然同じような年代です。
相続が始まった時点で、兄弟姉妹の何人かがすでに亡くなっていることも珍しくありません。
兄弟姉妹に子どもがいれば、その甥・姪が代襲相続人となる場合があります。
そうなると、まずは戸籍をたどり、「兄弟姉妹は何人いたのか」「誰が生きているのか」「亡くなった兄弟姉妹に子どもはいるのか」「その甥・姪は現在どこに住んでいるのか」を調べなければなりません。
財産を分ける以前に、相続人を確定するところから大きな手間がかかるのです。
会ったこともない甥や姪に、突然「相続の話」をすることも
戸籍を調査して、ようやく甥や姪の存在が分かった。しかし、その人と生前ほとんど交流がなかったというケースもあります。場合によっては、一度も会ったことがないかもしれません。
そんな相手に突然、「○○さんが亡くなりました。あなたは相続人です」と連絡することになります。
連絡を受けた側からすれば、「誰のことですか?」「どうして私が?」「何か借金でもあるんですか?」と困惑するのも当然です。
こちらに悪意がなくても、突然「相続」「財産」「印鑑証明」といった話をされれば、警戒されることもあります。そして、一人でも話が進まなければ、遺産分割協議そのものが進まなくなる可能性があります。
高齢の兄弟姉妹が「内容を理解できない」こともある
もう一つ、子どものいない方の相続で考えておきたい問題があります。それが、相続人となる兄弟姉妹の認知機能です。
相続人が高齢であれば、認知症になっていたり、認知機能が低下していたりすることがあります。
遺産分割協議は、単に名前を書いて実印を押せばよい手続きではありません。「どのような財産があるのか」「誰が何を取得するのか」という内容を理解したうえで意思表示する必要があります。
その判断能力が十分でない場合、本人に代わって家族が勝手に署名・押印することはできません。状況によっては、遺産分割協議を進めるために成年後見制度の利用を検討しなければならないこともあります。
そうなれば、「相続手続きをするために、さらに別の法的手続きが必要になる」という事態も起こり得ます。
なぜ、そこまでして全員を探さないといけないのか
ここまで読むと、「そこまで大変なら、連絡がつく人だけで決めたらいいのでは?」と思うかもしれません。しかし、そうはいきません。
遺言書がなく、遺産分割協議によって財産の分け方を決める場合には、相続人全員の合意が必要です。
10人の相続人がいれば10人。そのうち9人が賛成していても、残りの1人を無視して進めることはできません。
遠方に住んでいても。何十年も疎遠でも。亡くなった本人とほとんど交流がなくても。相続人である以上、遺産分割協議から外すことはできません。
だからこそ、戸籍をたどって相続人を確定し、一人ひとりへ連絡し、全員から合意を得る必要があるのです。
もし遺言書があったら?
ここで遺言書の意味が見えてきます。
たとえば、「自分の財産はすべて妻に相続させる」という内容の有効な遺言書があり、必要に応じて遺言執行者も指定されていたらどうでしょう。
少なくとも、「兄弟姉妹や甥・姪を全員探し出して、財産の分け方について一人ひとりから同意をもらう」という遺産分割協議を避けられるケースがあります。
しかも、兄弟姉妹には遺留分がありません。
つまり、子どもがおらず、直系尊属もいない夫婦で、「自分が亡くなったら、財産は配偶者に残したい」という希望があるのであれば、遺言書を作る意味は非常に大きいのです。
子どもがいないなら、遺言は「残される人への準備」
遺言というと、「お金持ちが財産を分けるために作るもの」というイメージがあるかもしれません。
でも、子どものいない方については少し違った見方をしてほしいと思います。
- 戸籍を何通も集める
- 高齢の兄弟姉妹の状況を確認する
- 亡くなった兄弟姉妹の子どもを探す
- 会ったこともない甥や姪へ連絡する
- 一人ひとりに相続の内容を説明する
- そして相続人全員の合意を得る
場合によっては、それだけで何か月もかかることがあります。
それをするのは、亡くなった本人ではありません。残された人です。
だから私は、子どものいない方にとって遺言書は、かなり優先度の高い準備だと考えています。
「自分が亡くなった後、財産を誰に残したいのか」それが決まっているのであれば、その意思を元気なうちに形にしておく。
遺言書は自分のためだけではなく、残される人を困らせないためのものでもあります。
有村行政書士事務所では、公正証書遺言の作成支援をはじめ、相続人調査、相続関係の整理、死後事務委任など、亡くなった後までを見据えたご相談をお受けしています。


コメント