「親を施設に入れるのは、いつ頃がいいのでしょうか?」
ケアマネジャーとして仕事をしていると、ご家族からこうした相談を受けることがあります。
この質問に、誰にでも当てはまる正解はありません。本人の身体状況や認知症の程度、家族の介護力、住環境、利用できる介護サービス、地域資源、経済状況などを総合的に考えて判断する必要があります。
――というのが一般的な答えです。もちろん、その通りです。
ただ、長く介護の現場にいるケアマネジャーとして、もう少し実務的な感覚でお話しすると、在宅生活を続けることが急に難しくなるタイミングがあります。
私は一つの目安として、「その人を一人にしておけなくなったとき」だと考えています。
「介護が必要」と「一人にできない」は少し違う
介護が必要になったからといって、すぐに施設へ入らなければならないわけではありません。
買い物が難しければ、ヘルパーにお願いする。入浴が難しければ、デイサービスを利用する。服薬管理が難しければ、訪問看護や薬局などと連携する。
介護保険サービスや周囲の支援を組み合わせることで、一人暮らしを続けている高齢者はたくさんいます。
ところが、「誰かがいないと安全を保てない」という状態になると、話が大きく変わってきます。
一つ目は、認知症による行動・心理症状が強くなったとき
認知症があること自体が、施設入所の理由になるわけではありません。認知症があっても、介護サービスを利用しながら自宅で生活している方はたくさんいます。
問題になるのは、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)が強くなり、本人の安全を一人では守れなくなってきた場合です。たとえば、
- 外へ出たまま帰れなくなる
- 昼夜を問わず外出しようとする
- 食べ物ではないものを口にする
- 火や電化製品を安全に扱えなくなる
- 強い興奮や混乱が続く
などです。
こうなると、ヘルパーが一日に何度か訪問するだけでは対応できないことがあります。なぜなら、介護サービスが入っていない残りの時間を一人で安全に過ごせるかという問題が出てくるからです。
一日24時間を訪問介護だけで見守ることは、現実的ではありません。ここで家族の負担が一気に大きくなります。
二つ目は、一人でトイレができなくなったとき
もう一つ、現場で大きな境目になるのが排泄です。
認知症がなく、会話もしっかりできている方でも、立ち上がれない。トイレまで歩けない。衣類を自分で上げ下げできない。便座へ移ることができない。こうした状態になると、一人暮らしを維持する難易度は急激に上がります。
食事なら、ある程度まとめて準備することができます。掃除や洗濯も、訪問時間に合わせることができます。
しかし、排泄は時間を選んでくれません。
「次のヘルパーが来る3時間後まで待ってください」というわけにはいかないのです。
夜間にもトイレへ行きます。転倒する可能性もあります。失禁すれば着替えや清拭が必要になります。
だから、一人で排泄ができなくなると、家族や支援者に求められる介護量が一気に増えるのです。
この二つは「周りの負担」が一気に変わる
認知症によって一人にしておけない。あるいは、一人で排泄できない。もちろん、これだけで「必ず施設に入らなければならない」という意味ではありません。
家族が同居しているのか。どれくらい介護できるのか。夜間の対応ができるのか。利用できるサービスがあるのか。本人がどこまで自宅生活を希望しているのか。さまざまな条件によって判断は変わります。
ただ、ケアマネジャーとして現場を見ていると、この二つは、「これまで何とか回っていた在宅生活が、急に回らなくなる」きっかけになりやすいと感じます。
すぐ施設と決めず、一度「様子を見る」こともある
一方で、状態が悪くなったからといって、すぐに長期の施設入所を決める必要があるとは限りません。
高齢者は、体調不良や入院、環境の変化などをきっかけに、一時的に身体機能や認知機能が低下することがあります。
その状態が今後も続くのか。体調が戻れば、もう一度自宅で生活できるのか。判断が難しいこともあります。
そういう場合、医療的な必要性があるなら入院治療を受け、その後の生活を検討したり、ショートステイなどを利用しながら状態を見ることも、実際の現場ではあります。
「家ではもう無理だから、今日からずっと施設」と一度に結論を出すのではなく、一時的な支援を挟みながら、本人の状態と家族の介護力を見極める。これも大切だと思います。
施設探しは「限界になってから」では遅いことも
実際に一人にしておけなくなってから、「さて、施設を探そう」となると、家族はかなり大変です。
本人への対応をしながら施設を探し、見学し、費用を確認し、申込みをすることになります。しかも希望する施設に、すぐ空きがあるとは限りません。
だからこそ、「まだ一人で暮らせているけれど、少し心配になってきた」くらいの段階から、どんな施設があるのか、本人はいくらくらいなら支払えるのか、どの地域で暮らしたいのかなどを家族で話しておくことをおすすめします。
施設を検討することと、今すぐ施設へ入ることは別です。準備だけ先にしておいてもいいのです。
「自宅か施設か」ではなく、その人が安全に暮らせる場所を考える
できるだけ自宅で暮らしたい。そう希望される方はたくさんいます。その思いは大切にしたいと思います。
一方で、自宅生活を続けることだけが目的になってしまい、本人も家族も疲れ切ってしまうことがあります。
施設へ入ることは、「自宅生活に失敗した」ということではありません。その人の状態が変われば、必要な生活環境も変わります。
私がケアマネジャーとして大切だと思っているのは、「どこで暮らすか」よりも、「その人が安全に、できるだけ穏やかに暮らせるか」という視点です。
そして、本人を一人にしておくことが難しくなってきたとき。それは、自宅での生活を続ける方法だけでなく、施設という選択肢についても具体的に考え始める、一つのタイミングだと思います。

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