令和8年10月、社会はまた少し変わります
令和8年10月、私たちの暮らしや働き方に関わる制度がまた変わります。
最低賃金は全国で引き上げられ、大阪府でも最低賃金が上がります。また、パートやアルバイトなど短時間労働者の社会保険についても、いわゆる「106万円の壁」と呼ばれてきた賃金要件が撤廃されます。
一方で、私たちの生活を取り巻く物価は上がり続けています。食品についても、10月だけで3,000品目を超える値上げが予定されています。
賃金を上げなければ生活できない。しかし、賃金を上げれば事業者の人件費は増える。物価が上がれば、働く人だけではなく、年金を中心に生活している高齢者の暮らしにも影響します。
そして私は、行政書士であると同時に、現在もケアマネジャーとして介護の現場で仕事をしています。そこで最近、別の変化を感じています。
「利用者がいない」のではなく「働く人がいない」
最近、私の事務所の近隣でも、介護事業所が閉鎖するという話を耳にするようになりました。
理由を聞くと、「利用者がいないから」ではありません。
「働く人が集まらないから」というのです。
介護を必要とする高齢者がいなくなったわけではありません。むしろ、高齢者の生活を支える人はこれからも必要です。それなのに、サービスを提供する側が維持できなくなっている。
現役のケアマネジャーとして仕事をしていると、「介護保険制度は、この先どうなっていくのだろう」と考えることがあります。
介護保険ではできないことが、実はたくさんある
高齢者が一人で生活していると、介護保険だけでは解決できない困りごとがたくさん出てきます。
たとえば、携帯電話の故障、銀行への外出、入退院時の付き添い、施設見学、介護保険とは関係のない役所の手続き、電気・ガス・水道などのトラブル、救急搬送時の付き添いなどです。
一つ一つを見ると、小さな困りごとに見えるかもしれません。しかし、その人が自宅で生活を続けるためには、どれも放っておけない問題です。
ところが、すべてを介護保険サービスで対応できるわけではありません。
家族がいれば家族がします。家族がいなければ、ケアマネジャー、ヘルパー、地域包括支援センター、病院の相談員などが「今回だけ」と動くことがあります。
こうして、本来の業務として明確に位置づけられていない支援が積み重なっていきます。いわゆる「シャドーワーク」です。
「自費サービスを使えばいい」だけでは解決しない
介護保険でできないのであれば、民間の自費サービスを利用すればいい。制度だけを見れば、一つの答えです。
そして介護人材が不足していけば、介護の専門職には、本来その専門職でなければできない仕事に集中してもらう必要もあるでしょう。介護保険の外側にある生活支援を、自費サービスなどで担うことも必要になると思います。
私自身も、そうしたサービスの必要性を感じています。
しかし、現場にいる人間として、どうしても避けられない問題があります。
必要な人ほど、お金がない。
ここです。
支援が必要な人ほど、自費サービスを利用できない
年金の中から家賃を払い、食費を払い、光熱費を払い、医療費を払い、介護保険サービスの自己負担分を支払う。それだけで精一杯という高齢者は、決して珍しくありません。
そんな方に「介護保険では対応できません。自費サービスを利用してください」と言ったところで、その費用を払えなければ利用できません。
そして難しいのは、身寄りがない、近くに頼れる家族がいない、身体が不自由で自分ではできない、認知機能も少しずつ低下している――こうした支援を必要とする事情が重なっている人ほど、経済的にも余裕がないケースがあるということです。
でも、誰かがやらなければ生活が成立しない
ここに、今の制度の難しさがあるように思います。
必要な人ほど、お金がない。
お金がないから、民間サービスも利用できない。
でも、誰かがやらなければ、その人の生活が成立しない。
だから結局、誰かが動きます。ケアマネジャー、ヘルパー、地域包括支援センター、病院の相談員、行政などです。
もちろん、困っている人のために専門職が動くこと自体が悪いわけではありません。私自身、そうやって何度も動いてきました。
ただ、それをずっと「誰かの善意」で支え続けることができるのでしょうか。
人手不足になれば、この問題はもっと大きくなる
最低賃金を上げることも、働く人の待遇を改善することも必要です。
一方で、介護事業所は介護報酬という公的に決められた価格の中で事業を運営しています。人件費や物価が上がり、人材の確保が難しくなれば、事業そのものを維持できないところも出てきます。
実際、私の身近なところでも、それが起き始めています。
介護保険制度そのものが、すぐになくなるとは思っていません。しかし、「介護保険があるから、誰かが何とかしてくれる」という時代は、少しずつ変わっていくのかもしれません。
「制度の外側」を誰が支えるのか
行政書士として、そしてケアマネジャーとして仕事をしていると、制度と実際の生活との間には、思っている以上に大きな隙間があることに気づきます。
銀行へ行くこと。病院へ行くこと。携帯電話を使えるようにすること。電気やガスを使えるようにすること。役所で必要な手続きをすること。困ったときに誰かに助けを求めること。
そうした一つ一つができて、初めて「地域で暮らす」ということが成立します。
これから介護人材がさらに不足していくのであれば、介護保険制度をどう維持するかだけではなく、「介護保険の外側にある生活を、誰が支えるのか」も同時に考えていかなければならないと思います。
自費サービスも必要でしょう。家族、地域、行政、医療、介護、そして民間事業者が役割を分担する方法も考える必要があります。そして、お金がない人をどう支えるのかという問題も残ります。
私自身、まだ明確な答えを持っているわけではありません。
ただ、現場で仕事をしている人間として、一つだけ強く感じています。
「制度の対象ではありません」で終わらせても、その人の生活は明日も続きます。
令和8年10月。物価も、賃金も、働き方も変わっていきます。
その変化の中で、制度と暮らしの間に取り残される人をどう支えるのか。
これは介護に携わる人だけではなく、これからの社会全体で考えていかなければならない問題ではないでしょうか。

