老後の困りごとは一つじゃない。終活支援から考える「空き家を残さない」という備え

終活・老後の備え

はじめに

終活というと、遺言書を書いたり、お葬式やお墓の準備をしたりと、「亡くなった後のこと」を思い浮かべる方が多いかもしれません。

しかし実際の高齢者支援では、「今の暮らしをどう続けるか」「住まいをどうするか」「頼れる人はいるか」「認知症になったときはどうするか」など、いくつもの問題が重なっています。

今回は、実際の支援経験をもとに、個人が特定されないよう内容の一部を変更・再構成した事例をご紹介します。

住まいの問題――持ち家なのに、土地は借地

ある80代女性は、昔ながらの長屋で一人暮らしをしています。建物は本人の所有ですが、土地は周辺一帯を所有する地主から借りています。

長屋は隣家とつながっているため、亡くなった後に更地にして返すには、建物の切り離しを含む工事が必要になります。しかし本人には、その費用を負担できるだけの資力がありませんでした。

このまま何も決めずに亡くなれば、住まいの処理が残された人の大きな負担になる可能性があります。そこで地主と根気強く連絡を取り、本人が亡くなった場合や施設へ入所した場合には、建物を現状のまま無償で譲渡する方向で話し合い、覚書を交わしました。

この支援には、もう一つ大きな意味がありました。将来、この長屋を「誰も処分できない空き家」にしないことです。

高齢者の住まいは、本人が亡くなったり施設へ入所したりした瞬間に、本人だけの問題ではなく、家族や地主、地域の問題へ変わることがあります。解体費用がなく、権利関係も整理されないまま建物が残れば、管理されない空き家になる可能性もあります。

今回は、本人がまだ自分の意思で話し合えるうちに地主と協議し、建物の行き先について一定の合意を書面にしておくことで、将来の空き家化を防ぐ道筋をつけることができました。本人の安心だけでなく、親族や地主に突然大きな負担を残さないための準備でもあります。

もちろん、個々の契約関係や建物の状況によって取れる方法は異なります。それでも、「この家を最後にどうするのか」という大きな不確定要素について、生前のうちに一定の道筋をつけられたことは、本人にとって大きな安心につながりました。

頼れる人とのつながりを、今のうちから

本人が頼りにしているのは、亡くなった夫の親族です。日頃からその方をキーパーソンとして連携し、本人の現状や今後考えられる支援について、必要な範囲で共有しています。

終活では、書類を作ることだけでなく、「いざというとき誰と連絡を取り合うのか」を整理しておくことも大切です。親族がいることと、実際に支援を頼める関係ができていることは、同じではありません。

難聴と認知機能――暮らしの困りごとは小さな工夫でも変わる

この女性には難聴があり、訪問者が来ても玄関チャイムの音に気づきにくいという問題がありました。そこで地域の支援機関とも連携し、玄関チャイムと連動して室内のランプが点灯する仕組みを取り入れました。

また、初期の認知機能低下も疑われましたが、本人は病院があまり好きではありません。無理に一つの方法だけを押しつけるのではなく、地域の認知症支援チームなどともつながりながら、本人の状態を見守り、必要な支援へつなげていくことにしています。

老後の支援というと大きな制度ばかりに目が向きますが、こうした生活上の小さな工夫が、安心して自宅で暮らせる時間を延ばすこともあります。

将来に備えて――任意後見という準備

現在は本人が自分で判断できる状態ですが、今後、認知症が進み判断能力が低下した場合に備えて、任意後見契約を準備しています。

任意後見は、契約を結んだだけですぐに始まるものではありません。本人の判断能力が不十分になった後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで効力が生じます。

だからこそ、まだ自分で考えて決められるうちに、「誰に、どんなことを任せたいのか」を整理しておく意味があります。

終活は「亡くなった後」だけの準備ではない

このケースでは、住まい、借地、頼れる人との関係、難聴、認知機能、そして将来の任意後見まで、いくつもの課題がつながっていました。その中でも、住まいの行き先を生前に整理できたことで、本人の不安を減らすと同時に、将来一つの空き家を生まないための準備にもつながりました。

老後の問題は、「相続だけ」「住まいだけ」「介護だけ」ときれいに分かれて起こるわけではありません。実際の暮らしでは、それらが重なり合っています。

一つひとつ将来の不安を整理していくことで、目の前の暮らしが少し安心なものになる。私は、それも終活だと考えています。

人生の終わりを考えることは、これからの人生を安心して生きること。

行政書士として手続き面を整理しながら、現役ケアマネジャーとして生活の変化も見守る。これからも、その人の暮らし全体を見ながら必要な支援を一緒に考えていきたいと思います。