介護でいちばんしんどい「過渡期」とは?支援を拒む親と疲弊する家族へ

終活・老後の備え

「病院には行きたくない」「ヘルパーなんか頼みたくない」「デイサービスには行かない」「歩行器なんて格好悪い」

介護の現場では、周囲から見れば支援が必要なのに、本人がなかなか受け入れてくれないことがあります。

家族は心配して何度も説得する。それでも本人は拒否する。だんだん家族も疲れて、「どうして分かってくれないの」となってしまう。

もし今、親が支援を拒み続けて家族が疲れ切っているなら、「自分たちだけがうまくいっていない」と思わないでください。介護が始まりかけた時期には、本人も家族も変化を受け入れられず、特に混乱しやすい時期があります。

でも、こうした時期には一つ特徴があります。私は、介護が本格的に必要になる少し前の「過渡期」が、本人にとっても家族にとっても、特に混乱しやすく、しんどい時期の一つだと感じています。

「できること」と「できなくなったこと」が混在する時期

認知症が少しずつ進んできている。でも、すべてが分からなくなったわけではない。

これまでできていたことが少しずつ難しくなっている。でも、寝たきりでもないし、身の回りのことを全部誰かにしてもらう状態でもない。

たとえば、買い物には行けるけれど同じ物を何度も買ってしまう。薬は自分で管理しているつもりだけれど飲み忘れが増える。歩けるけれど転倒が増えてきた。料理はできるけれど火の始末が心配になってきた。

この「まだできる」と「もう難しい」の間にいる時期が、過渡期です。

本人も「できなくなってきた自分」を受け入れにくい

本人からすれば、昨日まで自分でやってきた生活があります。

そこへ突然、家族やケアマネジャーから「病院へ行きましょう」「ヘルパーさんに来てもらいましょう」「デイサービスへ行きませんか」「歩行器を使いましょう」と言われる。

それは単にサービスや道具を勧められているだけではなく、「自分はもう以前のようにはできない」と突きつけられているように感じることもあるでしょう。

だから拒否が強くなることがあります。支援者から見れば合理的な提案でも、本人にとっては自尊心やこれまでの生き方に関わる問題なのです。

まず「最初の一歩」だけ背中を押してみる

こういうとき、最初からすべてを受け入れてもらおうとすると、かえってうまくいかないことがあります。

「一回だけ病院へ行ってみましょう」「ヘルパーさんに一度だけ来てもらいませんか」「デイサービスも見学だけしてみましょう」「歩行器は外に出るときだけ使ってみませんか」

そんなふうに、最初の一歩だけ何とか踏み出してもらう。

実際に利用してみると、「思っていたほど悪くない」と感じ、そのままうまく波に乗れる方もいます。

それでも拒否が強い人もいる

一方で、何度説明しても、どうしても支援を受け入れられない方もいます。

本人に判断する力があり、直ちに生命や安全へ重大な危険が及ぶ状況でなければ、支援者が本人の生活を無理やり決めることはできません。

そんなときは、安全面を確認しながら、本人が自分自身で「今まで通りでは難しい」と感じるタイミングを待つこともあります。

これは放っておくという意味ではありません。見守りながら、必要になったときにすぐ支援につなげられるよう準備しておくということです。

家族もまた「親が変わっていくこと」を受け入れる途中にいる

過渡期に混乱するのは本人だけではありません。家族も同じです。

「この前までできていたのに」「何回言ったら分かるの」「病院へ行くだけなのに、どうして嫌がるの」

家族にとっても、元気だった親が少しずつ変わっていくことを受け入れるには時間がかかります。

説得して、拒否されて、腹が立って、そのあと言い過ぎたと後悔する。そんなことが繰り返され、家族が疲れ切ってしまうこともあります。

もし今まさにそんな状態なら、「介護が始まりかけた過渡期には、本人も家族も混乱しやすい」ということを知っておいてほしいと思います。

「子どもが見てくれて当然」では家族がもたないこともある

高齢の方の中には、「年を取ったら子どもが面倒を見てくれるもの」という感覚を持っている方もいます。

一方で、子どもにも仕事があり、家庭があり、自分自身の生活があります。

本人が介護サービスを使いたくないからといって、その分をすべて家族が引き受けられるとは限りません。

だからこそ、ときには本人と家族が膝を突き合わせて、「ここまでは家族で協力できる。でも、ここから先はできない」と具体的に話し合う必要があります。

曖昧なまま頑張り続けると、本人を支える前に家族が疲弊してしまいます。

本人の意思を尊重することと、家族がすべてを背負うことは同じではありません

介護では、本人の意思を大切にすることが基本です。

ただし、本人の希望を守るために家族だけが限界まで頑張らなければならない、ということではありません。

本人が受け入れられる支援を探しながら、家族ができること、できないことも整理する。その間をケアマネジャーなどの支援者が一緒に考えていく。

介護が始まる「過渡期」は、答えが見えにくい時期です。

でも、「今は本人も家族も変化を受け入れている途中なんだ」と分かるだけでも、少し見え方が変わることがあります。

焦ってすべてを決めなくても構いません。最初の一歩を探しながら、本人と家族の両方が無理をしすぎない形を考えていくことが大切です。