「こんなに長生きするとは思わんかった」
高齢者の方と関わっていると、ときどきこんな言葉を聞くことがあります。
年金だけでは毎月の生活費をまかなえず、足りない分は貯金から補う。そうして暮らしているうちに、通帳の残高は少しずつ減っていきます。
今すぐ生活できなくなるわけではありません。それでも、「この貯金がなくなったら、どうしたらいいんだろう」という不安が、ずっと心のどこかにある。そんな方を私は何人も見てきました。
「あと何年生きられるか」より「あと何年お金がもつか」
本来、長生きすることは喜ばしいことのはずです。
ところが、年金収入が限られ、貯蓄を取り崩しながら生活していると、長生きするほどお金が減っていくという現実があります。
家賃、食費、光熱費、医療費、介護サービスの自己負担。物価が上がれば、これまでと同じ生活をしていても支出は増えていきます。
すると、「あと何年生きられるだろう」ではなく、「あと何年、このお金で生きられるだろう」と考えるようになります。
これは、とても大きな精神的負担です。
生活保護は「貯金がなくなってから初めて考えるもの」とは限りません
私は、こうした不安を抱えている方には、一度、現在の財政状況を整理してみることが大切だと考えています。
たとえば、
- 毎月の年金収入はいくらか
- 家賃や生活費はいくらか
- 預貯金はいくら残っているか
- 保有している資産や保険などはあるか
- 毎月いくら程度、貯金を取り崩しているか
こうした数字を一緒に確認します。
そのうえで、現在または将来、生活保護制度を利用できる可能性があるのかを考えておくのです。
生活保護は、収入や資産、他の制度の利用状況などを踏まえて、福祉事務所が世帯ごとに判断する制度です。そのため、「年金が少ないから必ず受給できる」「貯金がこの金額以下なら必ず受給できる」と単純に決められるものではありません。
だからこそ、自己判断だけで諦めず、必要に応じて福祉事務所などへ相談しながら確認していくことが大切です。
「貯金がなくなったら終わり」ではないと分かるだけで、人は少し安心できる
私が現場で印象に残っているのは、生活保護を実際に受給した瞬間だけではありません。
現在の収入や支出、資産を一緒に整理し、「もし今後、生活が成り立たなくなった場合には、こういう制度を利用できる可能性があります」とお話ししただけで、表情がずいぶん柔らかくなる方がいることです。
それまで、その方の中では「貯金がなくなる=生活できなくなる」だったのだと思います。
でも、社会には最低限度の生活を支えるための制度があります。
最悪の場合にも相談できる場所や制度があると分かれば、「今あるお金を一円でも減らしてはいけない」という恐怖が少し和らぐことがあります。
そして、今の生活をもう少し安心して過ごせるようになる。実際に、そんなふうに笑顔を取り戻された方を何人も見てきました。
生活保護を勧めたいわけではありません
この記事でお伝えしたいのは、「老後は生活保護を受ければいい」ということではありません。
年金や貯蓄で生活を続けられるのであれば、それに越したことはありません。また、生活保護の利用にはそれぞれの世帯状況に応じた確認が必要です。
ただ、「貯金がなくなったらどうしよう」という不安だけを抱えながら、残りの人生を過ごしてほしくないのです。
不安の正体が「分からないこと」にあるなら、一度数字を整理し、利用できる制度を知っておく。それだけでも意味があります。
将来の制度を知ることは、今を安心して生きるための準備
終活というと、遺言や相続、葬儀など、亡くなった後の準備を思い浮かべる方が多いかもしれません。
でも私は、老後のお金について考えることも大切な終活の一つだと思っています。
これから先、どれくらいの収入があり、どれくらいの支出があるのか。もし自分のお金だけでは生活できなくなったとき、どんな制度を利用できるのか。
それを知っておくことは、決して悲観的な準備ではありません。
人生の終わりを考えることは、これからの人生を安心して生きること。
将来の不安を一人で抱え続けるのではなく、まずは今の状況を整理するところから始めてみてはいかがでしょうか。

