はじめに
終活の相談というと、遺言や相続、葬儀の準備を想像されるかもしれません。しかし私が実際に受ける相談には、「この先、このお金で暮らしていけるのか」というものもあります。
資産分析で大切なのは、単に財産がいくらあるかを数えることではありません。今ある資産と収入、毎月の支出、住まい、家族の状況まで整理し、その資産でこの先どう暮らしていくのかを考えることです。
今回は、実際の支援経験をもとに、個人が特定されないよう年代・家族関係・資産や住居などの一部を変更・再構成した事例をご紹介します。
収入を生んでいた土地を、この先どうするか
相談者は高齢の女性で、土地を所有し、駐車場として活用して得られる賃料を生活費の一部にしていました。
しかし年齢を重ねるにつれ、駐車場の管理を続けることが難しくなってきました。同居する家族に引き継ぐことも、体調上の事情から現実的ではありません。駐車場経営をやめれば収入は減ります。一方で本人の年金は多くなく、家族も安定して働くことが難しい状況でした。
「駐車場をやめたら、この先どうやって二人で暮らしていけばいいのか」。そこから、今後の生活全体を一緒に整理する支援が始まりました。
まず「資産が尽きた後」まで見通して考える
将来、収入や資産だけでは最低限の生活を維持できなくなった場合には、生活保護という公的なセーフティネットがあります。ただし、生活保護は収入や資産、他制度の活用、世帯の状況などを福祉事務所が個別に確認して判断する制度です。土地など活用可能な資産がある場合には、その活用や処分が求められることがあります。
そこで、現在の収入、生活費、土地などの資産、今後予想される支出を整理し、「今すぐどうするか」だけではなく、「資産が減った後にどう暮らすか」まで見通して考えました。
固定費を下げる――公営住宅への転居を先に動かす
当時住んでいた民間住宅は家賃負担が大きく、収入が減った後の生活を考えると、そのまま住み続けることにも不安がありました。
そこで公営住宅への転居を提案し、募集や抽選の手続きも支援しました。老後のお金を考えるとき、資産を増やすことだけではなく、毎月必ず出ていく固定費を下げることも重要です。
将来生活が厳しくなってから住まいを探し始めるのではなく、まだ動ける段階から住居費を下げる準備を始めました。
土地を売却し、「暮らしを立て直すための時間」に変える
本人は最終的に土地を売却する意思を固めました。そこで不動産事業者につなぎ、登記手続きについては司法書士とも連携しました。
売却によって得たお金は、単なる生活費ではありませんでした。家族が体調を整えて就労へ再挑戦するための時間、公営住宅へ転居して生活基盤を整えるための時間――いわば「暮らしを立て直すための猶予」をつくる資金になりました。
資産を持ち続けることだけが正解ではありません。その資産をどう使えば、本人と家族が次の生活へ移れるのか。資産整理には、そういう視点も必要だと感じています。
公営住宅へ移り、その後に生活保護へ
その後、公営住宅への転居が実現しました。一方、家族は体調が十分に回復せず、就労への再挑戦は思うようには進みませんでした。土地の売却代金も、生活を続ける中で少しずつ減っていきました。
やがて資産だけで生活を維持することが難しくなった段階で、生活保護の申請をサポートしました。すでに住居費を抑えた生活基盤へ移っていたこともあり、その後の暮らしを考える準備は整っていました。
生活保護の可否は行政が個別に判断するものですが、このケースでは制度につながることで、生活を支える新しい基盤をつくることができました。
その頃、母は要介護状態に
ちょうど生活の基盤が切り替わる頃、母親は体調を崩し、介護が必要な状態になりました。
もし住まいもお金も整理できていない段階で介護の問題まで重なっていたら、母娘の負担はさらに大きかったかもしれません。
数年かけて住まいと資産を整理し、必要な公的制度につながったことで、介護が必要になってからも生活全体を支える土台ができました。
生活保護につなぐことがゴールではない
この支援のゴールは、生活保護を受給することではありませんでした。
土地をどうするか。住まいをどうするか。家族がもう一度働ける可能性はあるか。それでも生活が難しくなったとき、どの制度につながるのか。
一つひとつ選択肢を整理し、本人と家族が安心して次の生活を始められるところまで条件を整えていくこと。それが、このケースで行ってきた支援でした。
何年にもわたり後ろから支え、最後は公的な制度と介護の仕組みがしっかりと生活を支えてくれる中で、母娘が新しい暮らしを始めるところを見届けることができました。
資産分析も、終活の一つ
終活は「亡くなった後の準備」だけではありません。
老後の資産分析とは、財産額を確認するだけではなく、「この収入と資産であと何年暮らせるのか」「住居費を下げられないか」「資産をどのタイミングでどう使うのか」「最後にどんな公的制度があるのか」まで考えることだと思います。
まだ生活が回っているうちに将来を見通すことで、選べる方法は増えます。
人生の終わりを考えることは、これからの人生を安心して生きること。お金の不安についても、早い段階から一緒に整理することが、終活支援の大切な役割だと考えています。
